多重面相seizann

小説とか創作とか演劇とかゲームとか女闘美(?)とか多方面食い荒らし・・・

堀の寮長日記 その8


その8 戦う寮長さん


「おーっほっほっほ!!」

 会場にマイクなしの高笑いが響く。

リング上では、日本一の高飛車女こと、ビューティー市ヶ谷の圧倒的なパワー をもって惨敗を喫したテディキャット堀がセコンドに首を冷やされている。

「この程度の相手に10分も手こずってしまいましたわ! 全国の500万人の私のファンの皆様には、少し物足りなかったかも知れませんわね! オーッホッホッホ!!!」

市ヶ谷の言っていることを訳せば、堀の攻撃を一切受けようとせず、一方的にしとめようとしたものの、堀のスピードに思わぬ反撃を受け続けた苦戦の展開。

それを分かっている会場は、ブーイングに包まれている。

「ふん!! またく下々の下賎の者は私の崇高な戦いを理解できなくて本当に困りますわね!!」

市ヶ谷は不満を隠さずリングを降りる。

一方敗れた堀は、首をアイシングしながら四方に頭を下げ、ダメージ色濃そうに退場をしていった。



「……」

会場裏。

勝利をしたはずの市ヶ谷は不機嫌そうに控え室に戻っていた。

思い通りに試合を進められなかったのも、観客からブーイングが飛んでくるのも、納得がいっていない。

そもそも、ヒールではないはずなのに、あの田舎者の貧乳女ばかりが歓声を浴びるのも面白くない。

どんなにパワーを見せつけようと、自分が倒した相手のほうが応援を受けているのも――。

「まったく、面白くありませんわ!!」

不快さを微塵も隠さず、市ヶ谷は荷物をまとめる。

腐っても資産家のお嬢様。

寮では生活しておらず、会場からは自宅まで送迎の車が走る。

「ああ、麗華ちゃん、帰っちゃだめだよ!」

荷物をまとめたところで、先ほど試合で叩き伏せたばかりの堀だった。

市ヶ谷より頭一つ低い彼女は、上目遣いで人差し指を突きつけてくる。

「試合が終わったら、お客さんへのサイン会! 社長から言われていたでしょ!?」

「な、なぜ私がそんなことをしなければいけませんの!? 他のものに任せればいいではないですの!!」

「そういう問題じゃないの!! ファンを大切にするのは、当たり前のことでしょう!?」

「お断りしますわ! 私のサインは、そんなに安いものではありませんの! 社長にも何時も申し上げているとおりですわ!!」

「はいはい、分かったからはやく行くよ!」

堀は無遠慮に市ヶ谷の手を掴み引っ張り始める。

「ちょ……誰に断ってこのようなことを!!」

「にゃ!? ……ふにゅ!」

市ヶ谷が力任せに堀の手を振り解く。

その拍子に堀はつんのめり、顔面から倒れてしまった。

「わ、私のせいではありませんわよ! 私の意思を尊重しない、あなたの責任ですわ!!」

市ヶ谷は腕を組んであえて見下す。

若干、言葉に詰まっているあたり、わずかに動揺が見て取れてしまう。

「あー、そう……だったら、あたしにも考えがあるにゃん……」

珍しく怒りをあらわにする堀。

「ふん! でしたら、どうするといいますの? そもそも、あなた程度がこの私を制せるとでもお思いでして?」

つい今しがたの試合でも分かるとおり、実力の差は歴然。

プロレス界が、強い者が発言権を得る弱肉強食の世界だというなら、堀が市ヶ谷に対し何かを言える事は……、

「ふんっ!」

「……ひっ!?!?!?」

一瞬にして背後に回りこんだ堀は、市ヶ谷の首筋に親指と人差し指を食い込ませた。

「なっ!? なっ!?!?!?」

突然首を後ろから捉えられた市ヶ谷は、仰向けに仰け反らされてしまい、抵抗が出来なくなってしまう。

「行くといってほしいにゃあ?」

「わ、私の話を聞いておりまっ……っ!!!」

「言ってほしいにゃあ?」

「あ、貴方の、どこに、こんな力が……」

「ほしいにゃあ?」

「っ!! っ!!! っ!!!」

見た目はまったく変化がない。

しかし市ヶ谷の顔には脂汗が浮き、悲鳴すら上げられなくなっている。

「にゃ〜?」

「ぜ、絶対に、お断りですわっ……」

相手に屈服することを何より良しとしない、プライドの塊の市ヶ谷。

試合のときより必死な顔で絶えている。

「ん〜……じゃあ、こういうのは、どうかにゃ? 麗華ちゃんが興業の後、ちゃんとサインをしてくれるのなら、寮の食事、一食ご馳走するにゃ」

「な、何故私がそのような庶民の――っ!!!」

「にゃにかにゃ〜?」

「……わ、わかりましたわ!! 貴方がどうしてもいうなら、その話、お受けしますっ!!」

ほぼ、ギブアップに近い宣言の仕方で、市ヶ谷が申し出を受け、堀はようやく市ヶ谷を開放した。

「くっ……」

「さ、早く行くにゃん!」

笑顔で先に行ってしまう堀。

ここまでやられて、市ヶ谷が逃げるわけがないことは、承知の上というわけだ。

「……し、仕方ありませんわね!! 貴方の申し出を、特別に受けて差し上げますわっ!!」

後ろで響く声に、堀はしたり顔で笑いながら、足早に客だしへと向かった。










 

堀の寮長日記 その7


その7 


「おわった、おわった、と……」

タマ吉騒動の後、太平洋女子との練習は滞りなく終わり、堀はジャージにエプロンに着替え、
何時もどおり夕飯の準備に取り掛かる。

新人、若手は良い刺激になったらしい。

「さてさて、今日は……豚さんで冷しゃぶにでもしようかにゃん」

堀は練習の疲れも感じさせず、肉を一気にゆで始めると、同時進行で野菜も洗っていく。

気まぐれに作っているように見えて、実は彫りなりに取り決めがあるらしく、じつにキビキビと動いている。

全員女の子と言えど、数時間も動き回ったレスラーだ。
栄養補給と体力回復には、大量の食材が必要になる。

ちなみに、カート満タンにして、残り物を保存食のようにしても、二日ですべてなくなる。


「堀さーん、お腹すきましたー!!」
「ごはん、ゴハン、ご飯〜!!」
「お、豚の冷しゃぶですか〜、いい感じですね〜」

現れたのは若手代表格の永原、金井、レイの3バカトリオだった。

「三人とも、ちゃんとクールダウンしてきたの? ちゃんとストレッチしないと怪我の元だよ?」

「わかってまーす!」
「あー、レイちゃん、勝手に食べてるーっ!!」
「意地汚いんだから」
「なによー、食事ってのはね、弱肉強食よ! 先に食べたものが正義なのよ!!」
「そういうことなら、QTも!!」
「って、何で金井まで参戦してんのよ」
「へーん!! ちづるだけ良い子ぶっていればいいのよ!! あたしは食べる!!」
「あ〜!! レイちゃんがあたしの盗ったーっ!!」
「えっと、先に食べて良いでしょうか?」

三人揃えばゲリラ豪雨。

プロレスで、ならば褒められるところだが、あいにく日常生活でしか、この元気はない。

「ちづるちゃん、とりあえず食器並べて」

「あ、はいです!」
「QTも手伝う〜!」

堀の言葉に素直に従うちづるに、食欲よりも楽しいこと優先となる金井がくっついていく。

そして、誰より欲望に忠実なレイだけがつまみ食いを続ける。

肉のままで、ゴマだれにつけて、ポン酢で、レタスに巻いて、と次々に口の中へ消えている。

もちろん、つまみ食い程度でなくなってしまうような量を、堀が茹でているわけがなく、次々と出来上がっていく。

「やっぱり豚肉って良いですね〜」
「脂肪分も確かに必要だとは思うけどね、栄養価で考えると、豚のほうがね。
 個人的には、お魚か鳥が良いけど、大量に買うのはお肉のが安いし」
「なるほどですね〜、あ、トマトも良いですか?」

堀の返事を待たず、レイは堀が切り分けていたトマトを口へと運んでしまう。

「あのね〜、ちゃんとみんなで食事をするのも、共同生活で大切なことなんだよ?」

「寝る間も惜しんでやらなきゃいけないことがあるので!」

握り拳を作り、瞳を輝かせるレイ。

「直訳すると、イベントまで時間がないからコスプレ衣装を命を懸けて仕上げなきゃいけない、ってことですよ」

「当たり前じゃない!! あたしはプロレスでアニメを表現する女よ!!」

「うわ〜、言い切った」

「レイちゃん、かっこいーっ!」

ちづるの横槍にもめげないレイに、金井がどこかの若手お笑いコンビの合いの手を入れる。

「人それぞれ趣味はあっていいけどにゃ」

堀は笑ってレイの趣味を黙認する。

猫好き寮長の利点は、選手の趣味をほぼ黙認する、ということにある。

起床、消灯、門限、整理整頓程度なもので、それ以外に堀がとやかく言うことはほとんどない。

それは、どの選手にとっても、助かる器の大きさだった。

自分も猫部屋を持っているから、ともいえるが。

「じゃあ、ゆっくりしてられないんだにゃあ……はい、レイちゃんのご飯!」

堀は戸棚の中に保管してあったおにぎり二つを投げ渡す。

「助かります!!」

レイは意外に器用にキャッチすると、大口を開け、蛇のようにひと飲みにしてしまう。

「ま゛っ!! も゛じも゛ぐざばでびぼ!!」

さっさと部屋へ戻っていくレイ。

あの情熱がもう少しプロレスに向いていたら、彼女も中堅から強豪になれるかもしれないのに、とは、
誰しもが口をそろえることだ。

見送るちづるも金井も、今更なので口に出さない。

入れ違いに、夕食を目当てに、シャワーを浴び終わった選手たちが食堂に集まり始めた。



「ところで、堀さん、今のつまみ食いされた分ってどのくらいですか?」

「今日の豚肉はグラム135円だから、2700円……ちゃんと給与から点引きにゃん」

きらり、と堀の瞳が光った。

恐ろしいことに、レイが食べた肉の分量は、堀の猫の目がちゃんと観察していたのだ。



レイは果たして気づいているのだろうか

彼女の給与明細に「つまみ食い代」と本当に記載されて、天引きされていることに。







堀の寮長日記 その6


その6 昼時の大脱走


「こーらー、タマ吉! まちなさーい!!」

寮内に堀の声が響く。

堀が昼ごはんを準備に行ったところ、
3匹の中で一番いたずら好きのタマ吉が、猫部屋からの大脱走を試みたのだ。

たちが悪いことに、逃げ切る気は毛頭なく、適当に走り飽きると今度は自分から捕まりにくる。

ミーコはちょっとツンデレ、チャピは甘えん坊と、3匹は完全に個性が分れて来ている。

「もー! 逃げ足ばっかり早くなってーっ!!」

レスラーの中ではスピード自慢で通る堀も、さすがに本物には敵わないらしい。

寮に住む選手たちの合間をすり抜けて、道場へと繋がる道へと逃げ込む。

道場内には既に、太平洋女子の選手が練習をしていた。

「お、堀ちゃん」

「上原さん、ごめんなさい! タマ吉、捕まえてくださーいっ!」

堀の声に各選手それぞれが構えるが、ようやく飛び出せた広い遊び場に、タマ吉は縦横無尽に走り回る。

レスラーの反射神経をもってしても、予測不能な玉吉の動きは、誰にも捕まえられそうにない。

「あーもー!! タマ吉、いい加減にするにゃーん!!」

堀の怒った声にも、まだまだ暴れたりないタマ吉は更に動きを加速し、

「……む?」

ダンベルを持っていた柳生美冬の前に走り出てしまう。

他の女子とは違い、荘厳な雰囲気をかもし出す相手に、さしものタマ吉も思わず急ブレーキを掛けてしまう。

「……」

わずか一メートルもない間合いでにらみ合う両者。

美冬の鋭い視線と、タマ吉のつぶらな瞳が交錯する。

「……ふむ……」

やがて、美冬はゆっくりと膝を下ろすと、ダンベルを脇に置き、右手をそっと差し出して、

「……お手」

にゃあ

マタ吉が即右前足を美冬の手のひらに乗せた。

「「「ええええええ!?」」」

犬相手ならまだ分かる。

相手は、今しがた道場内を走り回っていた、子猫なのだ。

「み、美冬ちゃん、いったいどうやって……?」

猫に好かれる体質の堀ですら、この芸当は出来ない。

「いや、昔から、な……どうにも、動物には慕われることが多いらしい」

言いつつ、タマ吉を抱き上げ、堀に手渡す。

「あ、ありがとにゃん」

「礼には及ばん。鍛錬に集中をしたいだけだ」

淡々と語り練習に戻っていく美冬。

普段から他人と交流を持ちたがらない彼女だけに、
周囲の人間は、柳生の奥義の一端を垣間見た感動を覚えていた。




堀の寮長日記 その5


その5 賄い定食


「「「ご馳走様でした〜」」」

寮の食堂。

全員が同時に頭を下げる。
その前には綺麗に空になった皿に茶碗に小皿が並んでいる。

「お粗末さまでしたにゃん」

エプロン姿の堀は、綺麗になった料理を満足そうに見守っていた。

「いやぁ、堀ちゃん、料理うまかったんだねぇ。一緒に引っこ抜いちゃえば良かったかな」

そういって笑いを隠さないのは、ブレード上原。
パンサー理沙子のライバルにして、太平洋女子プロレスの主催者だ。

当然、団体を起こすにあたり、新人だけでなく、他団体のレスラーなどをを引き抜く事態も起こり、
決して円満な門出とはなっていない。

トラブルがない団体など、何の面白さもない。

それはブレード上原の求める、ハードコアも辞さないシュートスタイルだ。

トラブルは、上原自身、望むところだったというわけだ。

ただし、堀のスタイルには合わない。

「料理が出来ても、シュートする気はないにゃん」

上原の誘いを堀が直球で断っている間にも、太平洋女子の選手たちは食器を片付けている。

この後は、おのおの休憩を取り、新女の選手との合同練習会。

関東進出を控え、当然新女も当然興業に力を貸す。

その打ち合わせも兼ねての寮と道場訪問であるわけだ。

「まぁ、ジュニアクラスは頼んだよ。うちの新人にも活きの良い新人がそろっているからさ」

「ご期待に添えるかはわからないけどにゃん」

「そうだなぁ、金森も良いけど、うちには大宮って奴がいてね……結構才能ある子だから、一度堀ちゃんと絡めておきたかったんだよね」

堀はのらりくらりと言葉を避けているが、それを承知で上原は言葉を続ける。

他団体の主催者が、自ら手の内を開かした上に頼ってくる状況を、
猫がお人よしに化けたような堀が、断れないことを知っているのだ。

「……ってことで、うちの新人の子をちょっと揉んでほしいってわけ。オーケー?」

「人の話聞いてないにゃん……」

男前のウインクつきの上原の微笑みを、堀はジト目でにらみつける。

結局、社長が組んだ試合に逆らう権利など、堀にはないのだから、実情をさらす必要はない。

言うなれば、上原の言っていることは堀に対しての継続参戦の依頼、ということなのだ。

「堀ちゃんなら、やってくれると信じているからね」

「新人の子をみてからね!」

このまま決定されてはたまらないと、堀は足早に食堂から逃げ出す。

食器の整理は、午後の練習が終わった後のことになりそうだ。






堀の寮長日記 その4


「もー、社長、無茶なことばっかり言うんだから……」

堀がぼやきつつ、今日も買い物に足を運んだ店先。

野菜と、肉と、魚と、米と、醤油とお酢とみりん、ついでに塩と砂糖と味噌を入れて、さらに猫の餌が大量に入っていく。

寮の食材の経費は全部会社持ち。
ついでに猫たちの食事を買うことも、社長に了承させた。
といっても、寮に入っている選手全員の栄養管理を任されてしまったのだから、良かったのか、悪かったのか。

「大体、何人来るかも判らないんだから、作っておいてなんて言う方がどうかしてるにゃん……」

珍しく、堀が不機嫌そうに買い物を進めているのは、社長から奇妙なことを言われたからだ。

新しくスタートを切った地方団体「太平洋女子プロレス」と、社長は即協力関係を作った。

いずれ迎えるだろう団体対抗戦に向けて、早くも信頼関係を築くために何をしたかといえば、
首都圏の興業の際に、団体の道場と、食堂を貸し出す、というもの。

つまり、一番あおりを受けるのは、寮長として食堂の食事まで管理することになる、堀だった。

最近は冷蔵庫に電子レンジですぐに食べられる保存食を入れているほどだ。

ただし、カレーだけは祐希子専用鍋に保存されているが。

「ん〜と、確かくるのは、6人だったよね……嫌いなものとかないと、いいけど……」

と、シチューのルーに手を出してみると、褐色の手とぶつかってしまった。

「あ、ごめんなさイ」

「あれ? ディアナちゃん?」

「堀さん!? 奇遇ですネ!」

そういって微笑んだのは、サバンナの黒豹と名高い軽量級の新星、ディアナだった。
見れば、彼女の買い物籠の中も相当量の食料が放り込まれている。

「ディアナちゃんも来ていたんだ! ……でも、ディアナちゃん、近くにすんでいたっけ?」

「ハイ! 最近、一人暮らしのアパートを見つけましタ!」

「そうなんだ! なら、今度連絡ちょうだい! お近づきのしるしに、一緒にお茶するにゃん!」

「ハイ! 是非! ……ところで、堀サン、お一人で食べるんですか?」

ディアナの目は、自然とカート二段に詰まれた、山盛りの食材に引き寄せられていた。

「そんな大食いに見えるかにゃ?」

「堀さんは得体が知れない所がありますのデ」

「失礼にゃ!」

ケラケラ笑い合い、堀は寮長に任命されて、料理などを担当することになったことを伝える。

「それじゃ、練習の時間が削られちゃいマス」

「ん〜、練習量は変わらないんだけどね〜」

すべては、三匹の猫を手元に置く代償、なのだが。

「そんな調子じゃ、ワタシが堀サンを超える日はそう遠くないですネ!」

「そうれはどうかにゃ〜? ディアナちゃんはプロレスも素直だからにゃ〜?」

まだまだ、と嘯く堀に、取って置きがありますかラ、とこちらも自信を見せるディアナ。

堀の試合は、ほとんど殺伐としない。

結果、今のディアナのように、堀を越える日を楽しみに日々の練習に励むようになる。

人徳のなせる技、といえば聞こえは良い。

レスラーとしてどうかは、疑問が残るかもしれないが。

「でも、お茶するなら、堀さんの料理も食べてみたいデス」

「え〜、ディアナちゃんも?」

「はい。社長さんが開放するっていうことは、かなり美味しいということですよネ?」

「感覚で作っているだけだからにゃあ……社長の口に合っているだけかもしれないし……」

「それでも、食べてみたいデス。ワタシも、まだ日本の味付けになれていないのデ」

ディアナの言葉に、堀の耳がピクリと動く。

「……はっは〜ん、ディアナちゃん、実は誰かにお料理にいくんじゃないかにゃ?」

瞬間、ディアナの顔がポン、と赤くなる。

「あははは、ディアナちゃんの弱点を一つ発見にゃ!」

「え、ええ!? これって、弱点なんデスカ!?」

「試合中にささやくとか、マイクアピールでまぜちゃうとか……」

「じょ、冗談ですヨネ!? ほ、堀サン!? 堀サン!!!」

よほどの図星を指されたのか、ディアナが軽くパニックを起こしている。

このまま誘導尋問で誰が相手か聞きだすのは用意だろう。

「さぁ、どうだかにゃん?」

それをせずに終わりにしてしまうのが、お人よしの性。

堀は満タンのカートを押しながら、後ろを小走りに追ってくるディアナから逃げていった。




堀の寮長日記 特別編2


「ほんとにもー、優香ちゃんには困ったものにゃん!」

堀は腹立たしさを隠さず、社長の大きな椅子に、社長ごと押しつぶす形で座る。

「お前さんも、なかなかだがな」

「あー、 そういうこというの?」

頭上に来ている社長の顔を見上げつつ、頬を膨らませる。

「そもそも、ロードワークに行ったと思ったら行方不明になった挙句、猫と遊んでいるような奴が問題児と言わないと思うのか?」

「ちゃんと行き先がわかっているんだから問題ないにゃん」

「行動がワンパターンとも言う」

「意地悪嫌いにゃん!」

さらに社長の背もたれに身体を預ける堀。

「……ねぇ、社長はさ、あたしのこと、どう思う?」

「ん? 好きだよ」

「そ、そうじゃなくて!」

少し照れたのか、堀の頬がわずかに赤らむ。

「あたしのこと、妖怪だって思う?」

「猫娘」

「え〜、即答なの〜?」

「料理好きの猫娘」

「へんなオプションがくっついた」

「人間の世話が好きな料理好きのネコマタっぽい猫娘」

「てきとーに言っているでしょ」

ますます堀の頬が膨らんでいく。

「あたしだっていつまでも寮長だけやってられないんだからね。
ちゃんと、先のこと、考えてよ?」

「そうだなぁ・・・・・・そろそろ、落ち着かせないとな・・・・・・」

ゆったりとした時間が流れる。

この二人だけでいるときは、あわただしく走ってきた二人にとって、とても大切な空間だ。

「次の寮長なら、しのぶちゃんが良いと思うなぁ。料理もしっかりとしているし、面倒見もいいと思うよ?」

「そうすると、堀の料理が食べられないな」

「作ってほしいのかにゃん?」

少し、うれしそうに微笑みながら、社長の顔を見上げる。

小柄な堀にとって、実は社長の上に座ってしまうと、意外なほど収まりがいい。

それは、ほんの少し身体を伸ばせば、すぐに愛しい人の唇に触れられるから。

「そうだな。作りにきてくれるとうれしい」

「りょーかい、にゃん」

うれしそうに微笑み、軽く唇を触れ合わせる。

「今夜に、ね……?」






「……という話から、一気にエッチな展開にしようと思っていただけなのです……同人誌に、罪はないのです……」

食堂で正座させられた富沢レイが、苦渋に満ちた顔で、原稿を没収されている。

「ずっとゆりゆりで書き続けてきた新たな一歩を、ぜひとも堀さんと社長をモデルに刻ませてもらいたいのです!!!」

「人のことネタにしていることに罪悪感はないわけにゃ? ふーん、そうかぁ……ふぅ〜ん……」

それ以上何も言わず背中を向けてしまう堀。

「お、お代官さま、どうか、どうかお許しをおおおっ!!!」

その行動がどういう意味か、寮の中で知らぬものはいない。

必死にすがりついたのも功を奏さず、レイの食事は、その日から秋葉原で売られているアニメのイラストがプリントされたレトルト食品 以外でなくなったという。


 

堀の寮長日記 特別編


選手寮の百物語


「みんな、かくごはいい?」

蛍光灯すら点けていない食堂。

暗がりの中、若手選手が輪になりロウソクを囲んでいる。

その真ん中には、普段から霊感が高いことを自称している、優香がいた。

「そもそも、猫っていうのは、妖怪とかになるって話があるでしょ……」

霊感が強く、おばけが嫌い、という割に、もともと好奇心が強い彼女の怪談は、
レスラー仲間では、女稲川淳二とすら言われている。

「それでね、堀さんが寮長に任命されているの、皆不思議じゃなかった?」

だって、それは、社長と掘さんが良い仲だから……。

少し唇を尖らせて愚痴る選手が数人。

社長と堀が婚約を発表したのは、半年ほど前のこと。

まったくエコヒイキされているとも感じず、いつの間に付き合っていた、と誰しも驚いた発表だった。

その後も、仲むつまじい、というより堀が気まぐれに社長に甘えにいく、まるで猫と飼い主のような関係を続けているのだが。
 
「堀さんの魅力……たしかに、可愛らしい人だし、見た目よりずーっとしっかりしていて、人徳は間違いなくあるけれど、突出して強いわけじゃないし……」

優香、嫉妬じゃない?

「ちがう違うチガウっ!! そうにしたって、社長と堀さんの信頼関係、ちょっと異状だもん。入る余地ないっしょ。
……じゃあ、話を戻すね。あたし、この団体にきたときから、ちょっと変だなって思ってたの」

何が?

「それはね、夜の消灯のとき、あまりにも廊下を真っ暗にしているってこと……学校とか思い出してみて……こんなに、暗いと思う?」

誰でも一度は廊下の暗がりを体験したことがあるだろう。

小さな音でもフロアすべてに響くような

ロウソク一本の灯りを頼りにした暗がりも手伝い、
優香のトークはいつもより切れよく聞こえる。

「そもそも、キャラ作りで語尾に『にゃん』が付くことはあるけれど、
堀さん、地で出しているでしょ?
元々すごく明るい性格の先輩だから、全然気にならないでしょ?
でも、これって変じゃない?」

輪になるレスラー全員が頷く。
たしかに、堀の口癖は、誰もが知るところ。
ただ、あまりに自然に語尾が「にゃん」になるでスルーしてしまっているが……。

「それでね、私の結論……堀さんは……猫つき……」 

え?

聴きなれない言葉に、全員が息を呑む。

「こないだ私が夜寝付けなかったとき、変な笑い声が聞こえてきたのね……」

優香が前のめりになると同時に、全員が身を寄せ合うようにして輪が小さくなる。

「聞こえてきたのは廊下なのね。でも、そんなに大きな声じゃなくて、クスクスクス、クスクスクスって、
大きな笑い声じゃないんだけど、やたらとハッキリ聞こえるの」

話に熱が入ったのか、恐怖を思い起こしたのか、優香の頬に一筋の汗が伝う。

「やばいな、こわいなって意識は、あたしの中にもあったのね。
だけど、それより、この笑い声の正体を確かめなきゃって思ったの」

わずかに輪の中の一人が身じろぐ。
なんでそんな危ないことを、と。

「だって、小さな声なのに、部屋の中に響いてくるんだよ?
毛布の中に潜っていたって聞こえてくるなら、正体突き止めるしか無いじゃん。
だから、あたしはそーっと廊下を覗いてみたのね」

ゴクリ、と誰かが生唾を飲む。

「消灯時間を過ぎていたんだから、当然廊下は暗いわけ。
でも、クスクスクス、クスクスクス、って笑い声はまだ聞こえているの。
どこからだろうって、あたしは忍足で、声がする方に向かったの」

全員、暗い廊下の不気味さは知るところ。ある者は耳に手を置きつつ、話に食入り、ある者はさらに前のめりになっている。

「それでね、あたし、気付いちゃったんだ。
この先って、誰も住んでいない……ううん、人間は、住んでいないよねって……。
そう、堀さんが飼っている、3匹の猫の部屋しかないの!!」

ちょ、ちょっと、大げさに話し過ぎだよ。
そうだよ、堀さんが、猫と遊んでいるってだけだったんでしょ?

ちょっと上ずった声で、話の腰を折ろうとする発言。
しかし、優香は大真面目のまま。

「そうだったら、どんなに良かったかな……だって、堀さんが猫と遊ぶときは、いつも話しかけているじゃん。
なんで、夜に限って、クスクスクスなんて笑って、一言も話さないわけ?」

あ、そうだ、と声が沈む。
優香はさらに続ける。

「……笑い声は、間違いなく猫部屋からだった……あたしね、堀さん?って呼んでみたの。
でも、返事がなくて、ずっとクスクスクスって笑っているだけ。
コンコンコンってノックする。やっぱり返事がないけど、笑い声だけがピタって止まったの」
なんだ、やっぱり堀さんいたんだって思って、ゆっくりとドアを開けたら……」



「みぃ……たぁ……にゃあ……」



堀の正体
 



きゃーっ!! というレスラーらしからぬ悲鳴が食堂に響く。

「堀さん、おかしいの! 手とか足とかネコミミとか、ほら、飾れば何とかなるでしょ!?
でも、しっぽが違うの!! 二股に分かれていて不気味に動いているの!!
堀さんは、人間じゃない!! 正体は、ネコマタなんだよ!!!」



「わっ!!!!」



きゃーっ!!!!

突然食堂に響いた声。

次いで電気がつけられ、明るくなる。

「何、馬鹿なことしてるにゃん! もう消灯時間なんだから、早く寝なさいっ!!」

寮長の堀だった。

「まったく、人のことダシにして、いい迷惑にゃん!」

蜘蛛の子を散らすように逃げていく若手レスラー達。

「あ、あはは、ちょ、ちょっとした、レクリエーションですって……」

主催していた優香だけが逃げ損ね、愛想笑いを浮かべている。


「優香ちゃん?」

「はい、なんでしょう?」

優しげな堀の微笑み。

しかし、まるでパンサー理沙子に年ゲフンゲフンしたときのような
言い知れぬ圧力を放っている。

ご機嫌をとろうと、口元が懸命に笑おうとしている。

「……明日から、三食、ご飯抜きにゃ」

「ふぉおおおおっ!?!?!?!」


まだほとんどファイトマネーをもらえない新人レスラー。
寮に於いては、問答無用の圧倒的制裁。


その後、反省文と誓約書を書く頃には、

ネコマタの呪いだろうか、

優香はすっかりやつれていたという。






おしまい。





レッスルエイプリルフール企画参加(ー人ー)

とりあえず、もうすぐエイプリルフール。
おそらく、あらゆる企業が自粛することが目に見えていますので、
のんきに楽しむくらいなら、ということで、今年はSSくらい落とそうと思います。

レッスルの火は消さないっ!!

私のテンションが消えそうですが。

福島原発、いい加減にして欲しいですねぇ。。。
延々と不安を煽り続けられている気がします。。。

人間死ぬときは死ぬということはよく言いますが、
母、祖母を残して死ぬわけにはいかないなぁ、としみじみ思います。

同時に、本日の読売の記事の隅っこの言葉が痛みいることで。

芭蕉が、一つ一つを辞世の句として、詠っていた、というお話。

出来ることは、今のうちに全部やっておけ、ということと思いますが、

とりあえず、かけるものを全部描いていこうと思います。


がんばろーと、月並みな言葉はほぼ自分に向けてます。
被災地に向け、掛ける言葉が見つかりません。。。
まだ、災害は続いていますから……。

……伊勢崎線と半蔵門の直通が復活してくれないと、そろそろキツイなと……。
まぁ、いま何とかなっていることが、今後やってやれないというのは、甘え以外の何者でもないですが。

……すでに、今から夏場の熱中症の心配をしています。。。
我乍ら、気苦労の多い性格ですねぇ。



堀の寮長日記3


その3 

「おっはよーっ!!」

堀の明るい声で、三匹の猫が待ち望んでいたように駆け寄る。

「はいはい、マタ吉、チョピ、ミーコ、今日も元気かな〜?」

手馴れた手つきでお手製の朝ごはんを少しずつ皿に分ける。

足りない、足りない、と鳴く三匹。

「だめだめ。食べ過ぎると太っちゃうんだよ」

餌がお預けされて、仕方なく与えられた分で我慢して食べ始める。

その姿をうれしそうに見つめ、堀はやさしく、均等に三匹の頭を撫でた。


実は堀の朝は選手の誰より早い。

その理由は単純で、猫の朝が早いから。

朝食を準備するには、当然早起きが必要になるわけだ。

「さて、次はみんなの分っと……」

人間より猫が優先されているのがタマに傷だが。



「おっはよーございまーすっ!!」

「おはよー、祐希子ちゃん」

寮に響く元気な声。

元気印であれば堀にも負けない、マイティ祐希子だ。

めきめきと頭角を現している、未来のエース候補。

堀と違い、闘争心を前面に押し出しつつ、観客を魅了する躍動感あふれるファイトスタイルは、
すでに数多くのファンを獲得している。

「カレーカレー、カレーくださーい!!」

「祐希子ちゃんのは何時もどおり、準備しているよ〜」

「はいはーい!!」

三食全部がカレーを食べ続ける祐希子に、堀は特性のカレーを常に鍋に常備している。

祐希子が勝手に消えなくなったと、社長から妙に好評を得ているメニューだ。

ちなみに、祐希子が5杯食べる間に、堀は朝の定食分を自分で作る。

一人分を作るより、大人数の分を作る方が楽な部分があるというのは本当で、
子供のころから自分で料理をしていたことも手伝い、味も相応にまとめている。

最近では霧子や社長も相伴にあずかりにくるほどだ。

三杯目のカレーを飲み終わった祐希子はようやく食休みに入ったらしい祐希子は、
麦茶を飲みつつ、満足そうに背もたれに身体を預けている。

この後、すぐに練習を始めてしまうのだから、敬意よりも先にあきれてしまう。

「そー言えば、堀さん、猫ちゃんはどうなってるんですか?」

「うん、みんな元気だよー」

「今度の興業どうするんですか?」

「霧子さんがお世話してくれるから大丈夫♪」

「なんだぁ、一緒に来るのかと思って楽しみにしていたのに」

「いつでも猫部屋に遊びに行っていいけど、でも乱暴だめだからね」

「わかってまーす」

いいつつ、ひょいと席を立つ祐希子。

なんだかんだで、3匹の猫たちも、選手たちに好評らしい。


テディキャット堀の寮長日記2


その2 深呼吸



「うん、これでよし」

堀自らプロデュースした寮の一室。

大きく息を吸い、自分の仕事に満足げに息を吐く。

すっかり猫部屋に改造されている。

小さな身体に見合わない大きな部屋を与えられたマタ吉、チャピにミーコがうれしそうに走り回っている。

「これでみんな楽しく過ごせるね〜。良かった良かった」

猫好きとして、やはり猫と一緒に暮らしていないと落ち着かない。

そんな環境を放棄してまでプロレスをやってみたのは、スカウトで声を掛けてくれた社長に対する恩義と、堀なりのチャレンジだった。

日米のハーフである堀は、両親の仕事の関係で、
一つの場所に定住する、という機会は少なかった。

陸上の高飛びでという特技を持つまでは、ハーフの外見もあり、
クラスですぐになじめる、ということはなかった。

そんな生活で唯一友達と呼べたのは、猫たち。

落ち込んで公園で一人ブランコに乗っているとき、
何も言わないのに足元に擦り寄ってきてくれた。

そのくせに、元気なときは知らんぷり。

心が読めているのではないかと何度も思ううち、
いつの間にか、猫と視線を合わせることが当たり前になり、

いつしか、元気なときも何時も擦り寄ってきた。



猫のように。

気まぐれでも、人の心を感じられる人になりたい。

元気がないときに、ふと寄り添えること。

いつも、元気を与える側であること。



それが、堀にとっての陸上であり、

プロレスラーという場所を選んだ理由。

もしかしたら、寮長という立場でも、

団体の誰かに元気を渡せるかもしれない。

堀は、もう一度大きく息を吸い込んだ。

「……さて、がんばってみるかにゃん!!」

 

テディキャット堀の寮長日記 1


その1 任命式

今日からお前さん、寮長な。

「にゃ?」

以上、社長と新寮長との会話終了。

「薮から棒すぎにゃん!!」

堀が抗議の声を上げたのは、たっぷりと30秒以上経ってから。

新日本女子の社長が選手寮として借り受けたアパートは下宿タイプのもので、
食事は全員が一同に介することになり、当然まとめ役が必要となる。

そこで白羽の矢を立てられたのが堀という訳……なのだが、

「あたしが皆を纏められるわけないにゃん!!」
「だいたい、なんであたしが選ばれるのにゃ!?」

社長から帰ってきた言葉。

現在、料理が一番マシだから。

「ふざけろにゃーっ!!!!」

その後、散々文句をいい散らすものの、堀が引き受けてしまった理由は、誰しも察するところ。

『寮長なら、猫、一匹なら飼ってるくらい、黙認だろうな』

レスラーになって1年。

ペットが禁止の寮住まいだった堀は、
ずっとノラを相手にしてどうにか『ねここねこ禁断症状』を抑えてきたのだ。

そして、近所のノラ達を相手にしていることは、社長にも見られている。

『ああ、そういえば、寮の前に猫がいてな』

そういって、社長が抱いていたのは、

「タ、タマ吉!?」

『あと二匹いてな』

「チャピ!? ミ、ミーコまで!?」

ロードワークの先で遊んでいた子猫達だった。

まさに、猫質。

1匹なら目を瞑るにしても、3匹ではな、とか言い始める社長。

あたしより、ずーっとお金持ちのクセに!

……結局。

空室を猫たちの部屋にするのを条件。

「ほらほら〜、ごはんだよ〜。みんな、暖かいおうちが見つかってよかったね〜、パパにお礼しましょうね〜」

「誰がパパだ」

猫が寄り添ったとたん、堀は呆気無く寮長に就任させられてしまったのだった。